絵本と小噺。
とある絵本好きな女の子がいました。
その子がこぞって読む絵本の名前は、
「だいきらい?ほんとうに?」
という絵本。
内容はこうです。
あるところにネズミくんとゾウくんがいました。
ふたりはおたがいのことがだいっきらい。
ことあるごとに、
「ゾウくんとはあーそばない!」
「ふーんだ!ネズミくんとあそんだってたのしくないやい!」
と、わるぐちがっせん。
あるとき、
ネズミくんはいいました。
「ゾウくんなんてカラダがおっきいだけだね。ぼくのほうがすばしっこくてカッコいいんだもんね。」
「なんだってー!ばかにするのかー!」
ゾウくんはもうカンカン。
ネズミくんをすごいいきおいで、おいかけはじめました。
ネズミくんはこまかいあなをすいすいととおりぬけるので、
なかなかゾウさんにはつかまりません。
ネズミくんはいいました。
「ほうら、いったとおりだ!ゾウくんはのろまだなー!」
ゾウくんはこらえきれなくなって、
「もう、ゆるさないぞー!えーーーい!」
と、あなごやごとふきとばしてしまいました。
ネズミくんはこやのしたじきになって、きをうしなってしまいました。
「しまった!やりすぎてしまった!」
ゾウくんははんせいしました。
ネズミくんがきがつくと、
ゾウくんはそばにいてこういいました。
「ネズミくん、ごめんなさい。すっかりやりすぎちゃった。もうにどとしないよ。」
ねずみくんはいいました。
「こちらこそ、ごめんなさい。いってはいけないことはつい、いっちゃった。もうにどとしないよ。」
ところで、とゾウくん。
「ネズミくんはどうしてぼくのことがそんなにだいきらいなんだい?」
それはね、とネズミくん。
「ゾウくんがぼくのことをだいきらいだとおもったからさ。」
ネズミくんはつづけていいました。
「ゾウくんはどうしてぼくのことがそんなにだいきらいなんだい?」
それはね、とゾウくん。
「ネズミくんがぼくのことをだいきらいだとおもったからさ。」
「なぁんだ!」
「なぁんだ!」
ふたりともおたがいをだいきらいだとかんちがいしていたのです。
ことあと、ふたりはなかなおりをして、
だいのなかよしになって、ずっとしあわせにあそんだとさ。
おしまい。
と、そんな内容でした。
女の子は成長して、あの時の絵本がまた読みたいなとふと思い出しました。
しかし、どんなに探しても、あの絵本は見つかりません。
高校生になっても大学生になっても一向に絵本は見つかりませんでした。
女の子は社会人となり、結婚をし、
絵本と事などすっかり忘れていました。
ある時、会社の打ち上げの際ふと思い出したので、
同僚に打ち明けました。
「実はこれこれこういう絵本があって。」
そしてネズミくんの言葉を読み上げた時でした。
テーブルの向こうで一人と男性がこういいました。
「それはね、ゾウくんがぼくのことをだいきらいだとおもったからさ。」
なんと新しく入った同僚の一人が、
完璧に絵本のセリフを読み上げたのです。
実は、あの絵本は市場に出ているものではなく、
男性のお父様が個人で描いたものだったそうです。
なんの因果か、
女性の家にその絵本がやってきた為、たまたま知っていたそうです。
女性は同僚とすっかり意気投合し、
次第に好きになってしまい、
なぜ夫と結婚してしまったのだろうと考えるようになりました。
ある時、
ふとした事で口論となり、女性は包丁で夫を刺し殺してしまいました。
その直前、カッとなった夫はこう言ってしまったのだそうです。
「お前には本当に我慢の限界がきた。ずっと言おうと思っていたけどな、お前のことはもうだいっきらいなんだよ!」
そして女性は満面の笑顔でこう言ったそうです。
「だいきらい?ほんとうに?」